|
Section II. 40A超を喰うCPUのVRMとして考えた場合の問題点
問題点は3点で、その3つの対策を同時に実施しなければ解決にはなりません。
1.カレントリミッタ設定値が低すぎて40A超を供給できない
TigerMPで実装されているHIP6302の動作設定で、過電流検出抵抗値が低すぎます。 HIP6302のデータシートを読みますと過電流保護のスキームは、
i) 各相間の負荷バランスをとるために各相出力から電流検出抵抗(RISEN)で負荷電流値を検出し、各相合計のアベレージ値とを差動アンプで常時モニタする。
ii) このアベレージ値は差動アンプとは別にコンパレータにて内部基準電流50μAとの比較でオーバーカレント状態の判断をするようになっているので、RISENは設計最大出力電流ILMAXが流れた時の検出電流IISENが50μAとなるような抵抗値に設定する。 RISENは下記の計算式で求める。
RISEN=ILMAX x RDS(ON)
÷ 50µA. ・・・式@ (このRDS(ON)はLower側FETの値)
iii) IISENが50μAを超えた場合、HIP6302はまず「相間の負荷アンバランスが発生した」という前提に立ち、超えた側は設定ILMAXの25%以下になるまでオンデューティ制限を開始します。 ただし相間負荷アンバランスではなく単純に設定ILMAXを超えた過負荷であった場合、全相ともVIDで指定された設定電圧を即座に下回ってしまうのでまたすぐにデューティ制限を解除します。 で、これだけでは過電流保護にならないので、50µAに対して165%(82.5µA)となった時点でスイッチを止めて電流出力を一旦停止する。 スイッチ停止から10.08ms経過後にスイッチ再開する。 以降もi)からの繰り返し。
となっています。
TigerMPでこのRISENを探すと高精度チップ抵抗(誤差±1%と思われる)が使われており、実測すると3.89KΩ〜3.93KΩでした。 実動作状態FETのRDS(ON)は前節で書いた通りですので、実測RISENの値からE系列3.9KΩで考えて式@からTigerMPで設定されている設計最大出力電流ILMAXは
ILMAX = 50µA
x 3.9KΩ ÷ RDS(ON)
で求まります。 TigerMPに採用されている2種のFETでそれぞれを当てはめて計算すると
・IRL3103S・・・50µA x 3.9KΩ÷15.6mΩ =
12.5Aがオンデューティ制限開始点、スイッチ停止は20.625A流れた時点
つまりCPUが41.25Aの電流を消費した時点でVRMはCPUへの電力供給を止めてしまう
・FDB6030L・・・50µA x 3.9KΩ÷17.6mΩ = 11.08Aがオンデューティ制限開始点、スイッチ停止は18.28A流れた時点
つまりCPUが36.56Aの電流を消費した時点でVRMはCPUへの電力供給を止めてしまう
となっている事が判明します。
PalominoMP1900+が当時の最大負荷でしたし、低価格製品に仕上げるため採用デバイスは少々妥協して「1相あたりの出力を20A以下に収める」という通常の設計原則から納得のいく設定と言えます。 むしろ、採用せざるを得なかった低価格デバイスをきちんと保護して長期間動作させられる配慮 とも受け取れます。 前稿ではこのVRMを酷評してしまいましたが、入力側電解コンの問題を除けば、それほど酷い設計ではない と認識を改めました。Tyanの設計者には謝意を表明します。
とは言えこれではFDB6030Lが採用されているTigerMPでBartonXPを2GHzで動かすのは無理としか思えないのも事実です。 仮に起動できてもすぐ止まる可能性が極めて高いと言えます。 もちろんオーバーカレント165%きっかりで正確に停止するわけではなく、±数%の停止ポイント誤差はあるはずですけれど。 これが IRL3103S採用のタイプなら2GHz駆動がギリギリ可能か、という感じです。 とりあえず私のTigerMP(VRM無強化、倍率変更基板のみ付加)ではIR採用タイプのおかげかBartonXP2500+が2GHz(133FSBx15倍)で一応Dual動作できます。 ただしRC5-72を走らせつつMP3再生を続けますとケース横蓋開放状態でも15時間ほどでwin2Kがブルー画面となって落ちます。BIOS起動上限(=windowsの起動過程で落ちる)は2070MHz(138FSBx15倍)でした。 FalconRockII、Xabre600、PC3200/512MB/unbuffered*1、ASC-29160、i82559、CMI8738、CheetahX15-2、DVD、FDD、SP-401RA12という構成ですから結構がんばってくれています。 とりあえずRISENだけを7.8KΩに変更して実験したところ、BIOS起動上限だけは2266MHzまで上がる事が確認できましたが、OS上での比較的安定動作に支障を来さないクロック上限は予想通り2000MHzと変化ありませんでした。 VID可変化改造はまだしていないのでCPUコア電圧1.65Vの状態です。これを上げられるようにすれば出力インダクタに20A超を流し続ける事になってしまい、入出力電解コンの寿命を劇的に縮めてしまう事にもなり、連続運転なら下手をすると数日でFETが焼けてしまう恐れも出てきますが、OS安定動作上限もあと少しは上げられるものと思います。
2.出力側インダクタの能力が40A超に対応できない
2つめの問題点は出力インダクタの能力(電流重畳特性)が全く不足している点です。 デバイスの項で書いた通り、3相以上のVRMならこのインダクタで良いのです。 仮にRISENを変更したとしても残念ながらTigerMPは2相VRMなので出力インダクタに20A超のDC電流を重畳する事になり、透磁率はガタ落ちになり、インダクタ温度は無風なら計算上110゜Cを突破します。
これが何を意味するかというと、透磁率が下がり過ぎ(=インダクタンスが減り過ぎ)る事で早まってしまう「電流の立ち上がり速度」に電圧制御ループの速度が追いつけなくなり、VIDで指定された定電圧値に制御しきれず、出力電圧値の乱高下が始まります。 (これは「出力電圧の発振」ではありません。そしてこの様子は師ご推薦のLTspiceという、LinearTechnology社が無償提供している回路設計CAD兼SpiceIIIシミュレータで適当な回路を組み、負荷電流値だけを過大な値にしてみればよく解ります) なおかつ出力インダクタのすぐそばにあるFETは、ただでさえ20A超の電流によって導通損失が増えて発熱が増えているのに、更にインダクタ熱の煽りを受けてRDS(ON)がまたぞろ増加してしまい、自己損失が鰻登りに増えます。 実際にはCPUクーラーの風がありますから、RISENの変更だけでBartonXPを2GHz超で動かしても数時間の連続稼働が可能な場合もあると思いますが、恐らく不安定極まりない状態での運用になるでしょう。 PCが冷めた状態からは起動できるのに、少し運転してから再起動をするときは再起動中に固まるという症状が出たり、5Vを多く喰うビデオカード(GF256やGF2GTS世代など)を挿すとまず動かないと思います。 また、VRMの変換効率も下手をすれば70%台前半まで落ちる可能性が出てきますからATX電源の+5Vは40Aでも足りなくなります。 常時70W消費(おおよそこれがBartonXP3200+を1発でmpegエンコードしている最中の目安)するCPUに変換効率80%の5V入力型VRMという組み合わせですと、CPU1発に必要な電力は5V17.5Aです。 で、Dual
CPUですからこの倍で35A、と。
こうなるとまずはATXコネクタが焼けて、そこから発火するほうが先かもしれません(^^;; いくら#16AWGの線材が使われていてかつ高級な大接点容量コネクタが採用されている800W
ATX電源だろうと関係なくなります。
ある意味これは4つめの問題点と言えますね(苦笑
参考までですが、760MPXマザーにMSIのK7DMasterというモデルがあります。私は所有しておらず細部を観察検討できないので予想なのですが、製品写真を見る限りではこれもVRMに問題を抱えているのだろうと考えています。
3.入力側電解コンのリップル許容量が40A超に対応できない
3つめの問題点は、出力電流を更に多く取ろうというわけですから入出力コンデンサに流れるリップル電流も当然のごとく増加するわけで、前稿で問題にした入力側電解コンRubycon
ZLのリップル許容量は確実に超えてしまう という問題です。 この様子は前出の三洋コンデンサ選定ツールや、リニテクLTspiceで類似回路を組んでシミュレートすればよく解ります。 ここは最低でも積セラの追加か、ZL10V1000よりも高許容な電解コン/OS-CON等への交換が絶対必要条件です。 RISENとインダクタの変更だけをしてこの入力コンデンサに対策を施さなかった場合、入力コンデンサがヘタるよりも先にFETが燃えてしまう可能性が高くなるので大変危険です。
|